[寄稿] もうひとつの近くて遠い関係: 日韓スタートアップ業界
入力 : 2017-01-16 11:29:56 / 修正 : 2017-01-16 11:29:56


よく韓国と日本の関係について「近くて遠い国」という表現をするが、様々な意味で、そして様々な分野で適切な表現でもある。


よく韓国と日本の関係について「近くて遠い国」という表現をするが、様々な意味で、そして様々な分野で適切な表現でもある。これがぴったり合うまた一つの領域がスタートアップと呼ばれるベンチャービジネス業界だ。


日本と韓国のスタートアップ業界は、各国の文化的/制度的環境の上で急成長しており、世界のスタートアップ業界の流れにおいても各々ユニークな位置を占めている。相違点が多い反面、共通する特徴も多い。両国業界のシナジーを見つけることにおいてはまだ著しい成果は多くないが、交流の試みと初期の成果は、すでに現れている。


両国のスタートアップ環境には違いが多い。しばしば挙げられるのは、内需市場の違いから来るビジネスモデルの違いである。市場の規模が小さい韓国では最初からグローバル市場を念頭に置く場合が多いのに対し、国内だけでも相当な規模の市場がある日本は、比較的海外進出に対して消極的なようである。実際にはそうでない事例も多々あるが、先入観においてこのような見解が多い。


韓国では、現在の政府のいわゆる創造経済政策に基づいた、スタートアップに対する政府からのサポートのレベルが高い。伝統的に経済主体の活動がソウルに集中していたのとは違い、政府主導で行政区域ごとに創造経済センターを設置し、主要な大企業が連携するようにしたものが代表的である。一方、日本は政府がというより、企業がスタートアップの交流と協力に積極的である。新規事業の開拓に興味を持つ大企業と所期の成果を出しているベンチャー企業の間のオープンイノベーションへの理解が広がって、多くの大企業のアクセラレータープログラムが初期企業に対しての関心と支援を代弁する。


起業に対する認識にも差がある。最近になって認識に変化があったとはいえ、韓国ではまだ起業は多くのリスクを伴うという認識が強く、実際にもそうである。大企業に就職すること、もしくは公務員になることが好まれ続けており、起業後に失敗した場合、回復が困難な場合も多い。これによる周辺からの眼差しとプレッシャーも負担になる。中小企業に対する軽視がスタートアップまで続いたりもする。一方、日本は、中小企業とベンチャービジネスの境界が多少重なっているようだが、韓国よりも長い起業文化があり、中小企業の社会的な位置も韓国よりは確立しているため、「独立」または「起業」自体への抵抗感は比較的少ないようだ。団塊世代の経済的成果によって、家族単位で失敗を耐え抜くことができる余地がある場合が多く、国家的な経済成長期を韓国より先に経て成長至上主義の風潮から外れてもいる。20年の長期不況を経て安定的な長期雇用への期待が減ったことも一つの要因と言えるだろう。


韓国では、ネイバーをはじめとする成功したサービスベンチャーの影響で、オンラインサービススタートアップの割合が非常に高い。急速に開発してリリースし、改善点が見つかればアップデートするという考え方に拒否感がない場合が多い。一方、日本はものづくり文化の影響なのか、ハードウェア製作に対するプレッシャーを比較的あまり感じないようだ。パッケージソフトウェアのリリース経験が基盤となっているからか、初期の完成度を重要視するという印象だ。


スタートアップに対する投資のパターンでも多少の違いがある。両国とも全体と個々のスタートアップへの投資規模が、米国はもちろん、隣接する中国に比べても大幅に小さいという共通点がありながらも、一方で韓国が、一部の象徴的な大規模な資金調達以外には本格的な成長を支える中間段階の投資が活性化されていない反面、日本では、いわゆるユニコーンの登場は、韓国に比べて遅れてはいるが億単位の投資段階の参加者の層が比較的厚いという認識がある。


Exitの特性も異なる。それほど活性化されてはなく、程度の差もあるが、可能性と事例が存在するという点においては、韓国と日本のM&A市場は類似する部分がある。反面、企業公開市場において日本の場合はマザーズ市場の営業利益の基準など、より柔軟な面があり、相対的に韓国より多くの選択肢がある。もちろん、このような点が日本でのメガベンチャー成長に阻害要因になるという意見も無きにしも非ずだ。


[2016年に実施しされたメディア関連スタートアップのM&A (Source: http://thestartup.jp/?p=17396 )]


共通点もある。製造業と輸出中心の雰囲気が社会全般に見られるのは相変わらずだが、スタートアップ支援のための環境とアクションが多く目に映る。程度の差はあっても、スタートアップが将来の産業の動力となることができるという認識は定着した。融資中心の政策が多かった韓国では、返済負担の少ないイスラエル式のスタートアップ支援プログラムを導入し、銀行側のリスク管理の代表的な制度である個人の連帯保証の禁止に対しての議論が行われている。日本では、 助成金制度がスタートアップ規模の小企業を対象としても適用されており、スタートアップ関連の授賞式に総理大臣が出席して直接授与する。


どの国でも大同小異ではあるが、 両国とも米国のスタートアップ環境の変化やトレンドから似たサービスモデルを提供する例を多々発見することができる。成功するかどうかはさておき、米国で始まったモデルの模倣も多い。デモデーでの様子も、西欧の型を模倣することがかっこいいと思う 傾向もあるようだ。北米市場進出を目的としてデラウェア州を筆頭に最初から北米現地法人を設立する例も多く見られる。


スタートアップに投資する海外のベンチャーキャピタルが入りづらい構造であるというところにも共通点がある。英語が公用語として使用されないため、金融、法務などの側面で自国語を基本として行われる手続きが多く、投資活動の障壁となっている。良いスタートアップがたくさんあるにもかかわらず、両国で海外のベンチャーキャピタルからの初期投資が少ないことは残念な限りである。


可能性と制約の共通点の上で、お互いに対する理解とシナジーを図ることは意味のある活動だと考える。次回ではこのような背景下での韓国と日本のスタートアップ業界の交流の現状を述べる。


寄稿:金 範錫(キム・ボムソク)
韓国KAISTで工学博士を取得した後、スイスETH工科大学でクレジットスコアリングモデルを研究。現在はボン・エンジェルスベンチャーパートナーズの日本カントリーマネージャーとして活躍中。






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