〔出版社〕
光文社(新書として発行)
〔発売日〕
1月19日
〔著者〕
康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化・社会問題や日韓関係を描いた著作が多い。主な著書は『韓国ふるさと街道をゆく』『済州島』『韓国の徴兵制』『知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物』『朝鮮王朝の歴史はなぜこんなに面白いのか』『日本のコリアをゆく』『徳川幕府はなぜ朝鮮王朝と蜜月を築けたのか』『悪女たちの朝鮮王朝』『韓流時代劇がよくわかる なるほど朝鮮王朝物語』『宿命の日韓二千年史』
など。
〔本書の内容〕
韓国では昨年から今年にかけて大物スターの兵役入りが目白押しです。兵役を延期できるのは30歳までで、タイムリミットとなって続々と入隊しているのです。日本には徴兵制がないので、韓国の兵役のことがよくわかりません。そこで頼りになるのが本書です。「韓流スターが続々と入隊している現状」「韓国の兵役の仕組み」「軍隊生活の実態」「韓流スターの兵役を見つめる韓国の一般国民の視線」「今後の兵役のあり方」などがわかりやすく解説されています。難しいこともイラストを交えて丁寧に説明してありますので、本当に助かります。巻末には兵役用語解説も付いています。あこがれのスターが兵役に入って心配している日本のファンにとって、必読の書といえるでしょう。
◆著者(康 熙奉/カン ヒボン)インタビュー
続々と兵役に入る韓流スターの軍隊生活をさぐる
――韓国の兵役問題が日本の韓流ファンの間でも注目を集めていますね。
「現在の韓国芸能界には20代後半の大物スターが数多くいます。彼らは芸能活動に支障がないように兵役を延期してきましたが、現実的には30歳までに入隊しなくてはならないのです。そういう事情から、2015年には東方神起のユンホとチャンミン、JYJのジェジュン、ユチョンが入隊しましたし、今年はBIGBANGのT.O.P、俳優のイ・ミンホ、イ・スンギ、チャン・グンソクなどの入隊が予想されています。これほどのビッグネームが兵役のためにこぞって入隊するというのは前代未聞のことです。日本の韓流ファンの間でも大きな関心を集めているのも当然だと思います」
――大物スターでも軍隊には行かなければならないのですか。
「スポーツの世界なら、オリンピックで銅メダル以上、アジア大会で金メダルを取れば兵役免除の特典がありますが、芸能人にはありません。『スポーツ選手は韓国の国威発揚に貢献しているが、芸能人はその人気によって韓国の評価を高めても基本的には個人の活動が中心で高収入を得ている』と見なされているからです。かつては軍の広報を担う芸能兵という存在もあったのですが、不祥事が続いて2012年に廃止になっています。ですから、芸能人も一般人と同様に厳しい軍務に就かなければならなくなりました」
――そもそも韓国の兵役はどのような仕組みになっているのですか。
「韓国に生まれた男子ならば、19歳になる年に徴兵検査を受けます。その徴兵検査では心理検査と身体検査が行なわれ、1級から7級までの兵役等級に分類されます。そして、1級から3級までが現役兵として実際に軍隊に入ります。軍務に就く期間は、陸軍と海兵隊が21カ月、海軍が23カ月、空軍が24カ月です。しかし、その軍務が終わっても兵役は終わりません。除隊後は戦時に召集される予備役となり、40歳になるまで毎年定期的な軍事訓練を受けます。つまり、完全に兵役が終わるのは40歳なのです。このように、韓国における兵役は非常に長期間にわたります」
――公務員として働いて兵役の代わりをする制度もあると聞きましたが……。
「徴兵検査で4級と判定された人は、兵役の代替制度に就く社会服務要員(かつては公益勤務要員と呼ばれた)となり、公共機関で働くことが多くなっています。また、現役兵として軍務に就くべき人も、選抜試験に受かれば、警察や消防で兵役の代わりを務める制度もあります」
――現役兵として入隊した場合は、どんな軍隊生活を送るのですか。
「現役兵になった人は、最初に新兵訓練所で5週間の新兵訓練を受けます。ここで軍人としての精神と戦闘能力をたたきこまれます。この訓練を終えると、各部隊に配属されていきます。軍隊は徹底した階級組織です。新兵は最初は二等兵ですが、一等兵、上等兵、兵長と昇級して、兵長を最後に除隊します。この間、兵士たちは上官や先輩の命令に絶対服従です。それができないと軍隊の中で孤立してしまいます」
――軍隊の中では暴力やイジメもあるのでしょうね。
「以前は深刻な問題でした。それによって、自殺や銃乱射事件なども起こっています。今は軍隊内部の生活環境も大きく変わり、人権保護が徹底されるようになりました。しかし、軍隊はやはり軍隊です。一般社会とは違います。以前よりかなり減ったとはいえ、暴力やいじめがなくなったわけではありません」
――心配している韓流ファンも多いことでしょう。
「ただし、芸能人はとても目立つ存在ですし、他の兵士たちからも一目置かれています。また、軍のイメージを向上させる立役者でもありますから、彼らをいじめることは誰にとっても得にはなりません」
――軍隊生活をもうちょっと知りたいのですが、お給料も出るそうですね。
「無料奉仕ではなく給料が支給されます。月給の金額は、二等兵で約13万ウォン(約1万三千円)。巨額の報酬を得ているスターにとっては微々たるものですが、とても苦労してもらった給料なので、その価値ははかりしれないものがあるようです。その給料は、軍隊内のPX(売店)で好きなお菓子を買って使う場合がほとんど。『PXで買って食べたチョコパイの味が忘れられない』と言うスターが何人もいますよ」
――チョコパイが救いになっていたんですね。「兵役の間に人気が落ちてしまったら」と考えたら、夜も眠れなくなってしまったのでは……。
「本人にはそれが一番の恐怖でしょうが、兵役をりっぱに終えて芸能界に復帰すると、さらに人気が上がるのが現在の韓国の風潮です。韓国は北朝鮮と激しく対立しているので徴兵制は欠かせない制度ですが、その義務を全うすることで人間としての評価が高まるのです。逆に言うと、世間に与える影響が大きい芸能人の兵役には国民の厳しい視線が注がれています。その重圧の中で軍隊に入っていくわけですから、大物スターたちも大変です。日本の韓流ファンも彼らを温かく見守っていただければ幸いです」