株式会社アンラボの張大勲法人長。|撮影:安・ビョンチョル

 

[スポーツソウルジャパン|安・ビョンチョル記者] 韓国セキュリティ企業の動きがあわただしい。約10年前から海外事業に本格的に参入してきた韓国のセキュリティ企業は、中国や欧州などはもちろん、最近ではIT超大国と呼ばれるアメリカにまで手を広げて事業拡大に総力している。しかし、欧米のグローバルセキュリティ大企業の韓国侵攻を防いでIT強国というタイトルを獲得した韓国企業の目覚しい成長と評するには、その内実の面でまだこれといった成果が見えないのも事実である。技術力の問題というより、マーケティング力の違い、現地でのネームバリュー、そして何よりも技術に対する信頼度の蓄積に時間がかかった側面が大きく影響したというのが専門家らの意見だ。


日本市場での状況も同じ。日本は自国のセキュリティ企業がほとんどないため、トレンドマイクロ、シマンテック、マカフィーなど欧米グローバルセキュリティ企業が市場を独占してきた。さらに、確信するまで物事を急がない日本消費者の厳しい特性が加わって、日本市場を“難攻不落の城”と称する関係者も多い。それだけに市場参入の壁が高いことを意味する。
このような環境の中でも10年以上日本に根を下ろし、最高レベルのIT技術で認められている韓国のセキュリティ企業がある。グローバル化を宣言し、世界市場への進出に一番最初に舵を取った韓国セキュリティ企業のパイオニア、アンラボの日本法人「株式会社アンラボ」がその主人公だ。


10年以上、日本市場での安着のためにブランドイメージと信頼度向上に力を注いできたアンラボは、今年創立12周年を迎え、積極的な市場先導計画を発表した。現地企業と構築した信頼関係やセキュリティ監視、モバイル分野での技術力などをベースに、新たに開かれている巨大な日本のモバイル市場での覇者を目指している。
“難攻不落”と呼ばれる日本市場で果たしてアンラボはIT韓流を呼び起こすことができるか。業界関係者の関心が集まる中、「現地化、高度な技術、流通網の攻略、戦略的パートナーシップの構築」などで成功神話を準備しているアンラボを<スポーツソウルジャパン>が18日に直接訪れた。


◆モバイルのセキュリティが危ない!
日本のセキュリティ市場は、欧米のグローバルセキュリティ企業が独占してきたが、日本市場のその巨大さと、地理・文化的に近いという利点が働いて、韓国のセキュリティ企業には“JAPAN DREAM”、“機会の地”とされてきた。アンラボは、2000年の初めの頃に連絡事務所の形で日本に開設され、2002年に正式に法人として設立された。今年で創立12周年を迎える。


設立当初5年間は、アンラボの代表的なアンチウイルス製品「V3」パッケージソフトウェアを販売するための流通網作りに力を集中した。また、現地化と事業基盤を構築するためにも総力した。その結果、韓国と同様にワクチンソフトの無料配布を通じて日本消費者に大きな印象を残し、特に2006年のファイル共有プログラム・ウィニー(Winny)を介して広がった“Antinny Worm”に対応できるワクチンを無料で提供、アンラボのブランド信頼度を大きく上昇させた。


しかし、アンラボの主力事業であったPC用ワクチンのパッケージ販売は、現在、市場の縮小と共に衰退の道に入った状況。アンラボの張大勲(チャン・デーフン)法人長は、PC市場からモバイル市場へに事業を大きく転換していると説明した。
張法人長は、「PC用のパッケージ販売から、セキュリティサービス提供の形に事業を転換した理由は単純だ。事業性がないからだ。競争が激しくなり、価格は下落、企業間の出血競争だけが深刻化しつつあるのが今の現実だ。既存の形にこだわる理由がないと判断して日本での事業方向を変えることにした」と事業転換の理由を説明した。

 

PC用のパッケージ販売から、セキュリティサービス提供の形に事業を転換した理由を説明する張大勲法人長。|安・ビョンチョル

 

また、「パッケージされたソリューションを購入することに日本の顧客は興味を持たなかった。「より高いレベルのテクニカルサービスを望み」、それが実現すれば、妥当な費用を支払うという意志も強かった。このような日本人の特徴を考慮して24時間動作するセキュリティ管制センターを開設、顧客企業のセキュリティ機器などで発生するエラーや問題などをリアルタイムで監視し始めた。実際に問題が発生すると、直接訪れて対応することはもちろん、定期的に脆弱性を検査し、必要に応じて中長期のIT計画などをコンサルティングもしている」と語った。張法人長は、事業形態が従来と大きく異なったため、絶対的な顧客数は大幅に減ったが、売上高は増える効果をあげていると明らかにした。


続いて張法人長は、「これからはモバイル分野が主役。スマートフォンの普及により、モバイル市場の爆発的な成長が最近続いている。事業性も期待するが、セキュリティ対策が緊急問題として浮上している。特にAndroidシステムは、オープンソースをベースにするため、ハッカーの攻撃に弱い。Androidに対する構造把握がある程度終わった時点で、ハッカーによる悪性コードの出現が爆発的に増えると予想される。これが、アンラボがモバイルセキュリティ市場に力を入れている大きな理由」とモバイル分野の脆弱性を強調した。


◆無料ワクチン配布は諦めない
アンラボは、2010年、本格的にセキュリティ監視サービスを開始してからセキュリティ監視、脆弱性の診断、コンサルティング、安全対策や模擬ハッキング・テストなど、様々なサービスや技術を提供し、日本のニッチ市場を積極的に攻略してきた。
張法人長の話によると、アンラボは今後もこの分野の市場を拡大していく計画である。これは、PC用ワクチン市場で一歩退くという意味にも受け取れる。張法人長もインタビューで、「既に成熟した市場で、大きな成長が期待されない分野」とPC用ワクチン市場の事業性について低く評価した。


しかし、張法人長は、「韓国アンラボの創業者である安哲秀(アン・チョルス、韓国議員)博士が95年まで、ウイルスワクチンを本人が製作して無料配布した。本社である韓国のアンラボはその精神を受け継ぎ、社会貢献を企業の基本方針として立てた。日本のアンラボも同じ考えを持っている。日本進出初期には有料販売だけしてきたが、今は韓国のようにV3ライトを無料で提供している。企業理念でもあるが、ワクチン製造企業の立場からも利点がある。韓国でV3無料ワクチンを使うユーザー数は2500万人程度だ。つまり、感染した悪性コードのパターンをユーザーの数ほど確保することができるという話。悪性コードのパターンを把握していると、ウイルスに対応する効率も向上させることができる。韓国で発生したDDoS攻撃のように、大規模なウイルス攻撃が発生した時、アンラボが誰より最初に検知することができたのもこのようなデータベースがあるからだ」とユーザーとセキュリティ企業の相互補完的な側面を強調した。


また、張法人長は、「日本ではまだ韓国のように活発になっていないが、徐々にアンラボの無料ウイルスワクチンの需要が増えている。日本国内では100万人程度のユーザーを確保することが目標で、100万人のユーザーがいると、日本国内で発生する悪性コードのトレンドや特徴をある程度把握することができる。このような過程を経て収集された全世界のデータが再びデータベースになって迅速なワクチン製造の基礎となる」とPC用ワクチンの無料配布事業の意義を説明した。


◆韓国系企業というレッテル
アンラボのマーケティングの中、他の企業と差別化された特異点がある。専門家や業界関係者を相手にしたセミナーや展示会などを開催することである。このようなイベントを開催する裏側には、日本での知名度・信頼度に悩むアンラボの立場がある。
張法人長は、「今年で創立12周年を迎えたが、アンラボにはいつもレッテルが貼られていた。“韓国系企業”、“アンラボの日本法人”がそれだ。韓国系企業というタイトルは、日本ではマイナスイメージであったため、戦略的に韓国系企業というイメージを払拭し、日本企業に生まれ変わるのを目的に立てた。アンラボの従業員のうち、70%以上を日本人に構成しのもその一環」と説明した。


日本での知名度を高めるために大胆な広告投資も考えたほど、アンラボにおいて知名度はブランド価値に絶対欠かせない要素であり、製品の信頼にも直結する問題である。アンラボがITと関連する問題があるたびに、または悪性コードの出現で緊急を要する際に、誰よりも素早く対応した理由がここにある。


張法人長は、「新型ウイルスの場合、通常2、3日だけで対応が可能なため、このような部分をアピールしたかった。一般ユーザーや金融機関などの専門分野の関係者を対象に定期的なセミナーを開催したのも同じ理由からだ。また、日本ではネットバンキングなどでのセキュリティが非常に脆弱なため、このようなセミナーを通じて啓発効果も期待できる。そういう活動が功を奏して、今年の年末からは日本の金融機関でアンラボの製品が広く使えることになる」と企業イメージの転換努力が徐々に知名度上昇に繋がっていると語った。

 

大きくなるモバイルセキュリティのリスクについて説明する張大勲法人長。|安・ビョンチョル


◆日本人の慎重さ、一つの事業に2年間もの時間が...
韓国のアンラボでも数年間の勤務経験がある張法人長は、日本市場だけの違いや問題点について、日本の顧客の慎重さを最も困難な点として挙げた。


張大勲法人長は、「日本に初めて顧客社と事業を進めた時、アンラボの紹介だけで1時間もかかった記憶がある。会社の信頼度を高めるためにはさらに多くの時間がかかった。また、日本人はお目が高い。長期的にこの会社が持っている能力やサービスの品質を全部チェックしてから、次の段階に進む。つまり、会社のブランドや信用力についてあまり重視しない韓国とは異なり、事業のリードタイムが長い。一つの事業に2年余りの時間がかかったこともある。ただし、適切なサービスを提供すると、日本会社は無理な要求や値引きはしない」と韓国と違う日本市場の特徴を語った。


しかし、この経験を基に本社とは別の色を出せるアンラボならではの現地化戦略を開拓することになる。アンラボは、主なターケットになる中小企業との長いリードタイムを介して彼らのニーズと要求を把握することになり、その点を反映した新製品を今月発表(試作品)する計画だ。
張法人長は、「今焦点を合わせている市場が日本の中小企業だ。日本産業の中小企業の割合は90%(50人以上)以上。中小企業とは言え、売上高は数千億に達するところが多い。しかし、これらの中小企業にはセキュリティの専門家やシステム運用管理者などがいない。この市場を攻略しなければと判断して開発された製品が、クラウド型のセキュリティサービス[AhnLab EOS]だ。サーバーの構築が不必要であることが最大の特徴で、ワクチンのサービスはもちろん、資産管理機能や省エネの機能を含めるなど日本の消費者のニーズを十分に反映した。PCとモバイルを同時に管理することができる点と、既存のシステム構築・ソリューション購入費用の50%価格で利用できる点がユーザーの負担を大幅に軽減されると期待する」と説明した。


アンラボのセキュリティマネジメント・クラウド・サービス[AhnLab EOS]は、現在、日本だけでなく韓国でもまだ普及していないシステム。アンラボの最初のローカライズシステムであり、韓国本社とは違う現地法人ならではの初の製品でもある。これまでパートナー社と顧客社を対象に試験的に運用した結果、満足度の面で良い評価を受けており、今後アンラボの主力事業の一つに成長するとみられる。


◆大きくなるモバイル市場、大きくなるセキュリティ脅威
最近のある市場調査機関の報告によると、インターネットのトラフィックが過去10年間で10倍に増加した。その中でもモバイルから発生したトラフィックが急速に増え、PCから発生したトラフィックを逆転し始めた。これはつまり、重要情報がPCからモバイルに移動しているという意味。


張法人長はこれについて、「モバイルには5つのリスクがある。重要情報が圧縮されているだけに、個人情報流出のリスクが最も大きく、次に端末情報が漏れるおそれがある。ユーザーの位置情報や不正請求などの問題が発生する可能性も上がる。モバイルデバイスは小さくて軽いという利点もあるが、盗難などの物理的な危険にも弱い。活用性が無限であるだけに、安全面に充実な備えが必要なのはいっそう明確になっている」と事業面での成功のチャンスがさらに大きくなることを期待した。


アンラボがモバイル分野に目を向ける理由は他にもある。PCセキュリティ市場とは異なり、モバイル市場はブルーオーシャン(競争のない未開拓市場の意味)に近いからだ。張法人長は、「日本のセキュリティ市場を独占してきた欧米のグローバルセキュリティ企業、トレンドマイクロ、マカフィー、シマンテックなどが今年初めからモバイル市場に続々とモバイル用ワクチンを発表したが、まだ明確な市場リード企業が明になっていない状況。10年以上蓄積されたモバイルセキュリティの技術をベースに、市場を先導していくことができると期待している」とモバイル分野に対する抱負を示した。


張法人長は最後に、「日本で専門知識を持って、長期的に勝負をかけると、勝算はあると判断した。数年前に発生したヤフーの2,000万件の個人情報流出事件やソニー、三菱のハッキング事件などで、日本でも徐々にセキュリティ分野への関心が高まっており、これと共にアンラボの最高レベルのセキュリティ技術に注目し始めた。これまでの10年間は、主に日本現地化と日本セキュリティ市場に安着することに重点を置いたとしたら、今後の10年は、アンラボの世界的な技術力を基に真の総合セキュリティサービス企業に生まれ変わる期間になると期待する。創業20周年となる8年後には日本業界のトップ5入りを成し遂げるのが目標だ」と今後のアンラボの明るい未来を見込んだ。
 

 

 

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