KDDIが韓国のスタートアップの支援も開始(Source:http://japan.cnet.com/news/business/35089586/2/) |
スタートアップの海外進出、スタートアップに対する投資においては成功事例より失敗事例のほうがはるかに多い。日韓両国間のスタートアップ交流と進出においても多数の有意義な成功例が存在するが、うやむやになったり静かに撤退したりする事例のほうがはるかに多いのである。
それでも、コンスタントに交流を図り進出を試みることには意味がある。 スタートアップ間の交流によって、相手国に進出しようとするスタートアップは、その立場や状況を理解している相手国スタートアップから他の利害関係者からは得られない情報をアドバイスという形で得ることができるのである。たとえそれが直接的な手助けにならないとしても、お互いの情熱を確認し仲間意識を育むことに意義を見出せる。
韓国での日本人によるスタートアップ起業の事例を探すのは容易ではないが、日本での韓国人による起業の事例は多く見られる。在日韓国人の起業はもちろん、韓国に生まれ成人した後に日本で就職し、その後独立する事例も多く見ることができる。多様な価値観を経験した超国家的な企業文化は固定観念を脱却した新たな業務スタイルの礎石になることもできる。
投資業界の面でも、相手国のスタートアップに投資すること、そして相手国ですでにその国の機関投資家から投資を受けたスタートアップに追加投資することは様々な形で意味がある。当該地域の有望なスタートアップの育成に寄与することはもちろん、相手国の投資傾向、暗黙のルール、行政的特徴まで把握することができる。投資に対する違う考え方を融合させつつ、有意義な投資を作り上げることに共に貢献することができる。このような活動はスタートアップの成長、投資の成果などを含め、スタートアップ業界の全体的なエコシステムを形成するのに必須要因となる。
だからこそ、このような活動において制約となる要因があることが残念でならない。まず根本的な問題として人的制限が挙げられる。日韓間で人材資源と関連してよく出てくる話で、日本は企画力が相対的に優秀で韓国はエンジニアリングが相対的に強いということだ。しかし、このような断片的な見解は単純な特徴の比較にすぎず、進出と交流に直接的に役立つものではない。相手国を十二分に経験してみた人材が圧倒的に不足しているのだ。地域的特性を反映したサービスは数ヵ月、数年間という短期間の滞在経験だけでは提供することはできない。就業ビザという形で日本の大企業に就職している韓国人エンジニアたちは多いが、彼らが日本のスタートアップ業界に入って活躍することができれば、シナジー効果は大きいだろう。チームは個人ではできないことをできるようにする可能性を持っている。しかし、外国人であるからこそ職業の安定性や在留資格などといった障壁が生じる恐れがあるため、安定感を与えることができるもっと頑丈なエコシステムが形成され後押しされる必要がある。 日本のスタートアップ文化でよく見かける週末業務、パートタイムなどといった形態、いわゆる草ベンチャーでは、強い結合と真剣な参加がなされることは難しいと筆者は考える。
人材の制約という問題は投資の分野でも存在する。スタートアップ投資業界に相手国の言語を難なく駆使することができ、かつ業務経験があるという人は多くない。現地エージェントを置くこともあるが、定型化されていないスタートアップビジネスについて関心対象や投資の判断基準を合わせていくことは容易なことではない。物理的に現地に拠点を置いていないのもまた、別次元の人材的制約の問題となる。出張で来てマーケットでの可能性を打診するVCたちもいるが、物理的拠点がない状態で該当地域の特性を把握してネットワーキングをすることには現実的に限界がある。
法律的制約の問題はより現実的である。国際取引において誤解が無く、かつ正確な行政処理は非常に重要だが、投資契約書とは別に存在する日本の募集株式総数引受契約書は二重作業であると捉えられやすく、また企業価値評価書を必要とする韓国の海外直接投資関連法は意味ある持分比率への初期投資に踏み込みにくくしている。お互いに相手国の言語を通用語として認めていないため、自国語または英文に翻訳しなければならないという手間も常にある。日韓両社会においてスタートアップ投資に対する経験が少ないため、関連法を急進的に変えることには限界がある。そのため筆者は既存の典型的な大規模投資以外のダイナミックな事例が累積されつつ、統制力を持ちながらも柔軟で敏捷に適用され得る法律の基盤が作られることを願う。
それほど長くない月日ではあるが、筆者が韓国の資本で日本のスタートアップに投資しながら同時に韓国のスタートアップの日本進出を支援して感じたところでは、韓国と日本にあるスタートアップのエコシステムは、欧米圏が作り出した国際的に同質的な雰囲気と基調を同一にしながらも、両国だけの共通点を活用して強く連携できる余地を有している。相手国の企業であれ市場であれ、似ていると考えて生半可にアプローチすればまた違う点で距離感を感じることもあるけれど、違うと考えて意識しつつ交流すると意外な同質性を感じてチャンスを見つけることができるというのが両国間の関係だと考える。距離が近くて、言語に共通点が多く、制度が類似しているという点のみを興味深く考えるのではなく、これから生じえるシナジーを創出する生産的な活動を期待したい。
寄稿:金 範錫(キム・ボムソク)
韓国KAISTで工学博士を取得した後、スイスETH工科大学でクレジットスコアリングモデルを研究。現在はボン・エンジェルスベンチャーパートナーズの日本カントリーマネージャーとして活躍中。