© Eiji YOSHIZAKI


「仮説を証明する」
本人たちに会う目的はひたすらその一点にあった。
 

先月23日に新曲「BLACK SWAN」を発表し、本日12時30分から「M WAVE」で海外ファン向けのオンラインイベントを行うRAINBOW。アルバム「INNOCENT」のプロモーション曲という位置づけの楽曲だ。韓国側の解説によると「怖いほどに中毒性があり、フックのあるコーラスが共存する」という。

 
これにかなり気になる部分があった。RAINBOWだけが持つ隠された秘密があるんじゃないかと。

(映像:http://youtu.be/BQz6K0aWWiY

 



東京ではじっとしていられず、ソウルに飛び立った。

 
彼女たちに会うことは、けっして容易いことではなかった。
所属事務所は真摯な取材申請に対してGOサインを出してくれた。
問題は“こちら”にあった。大学で韓国語を専攻して以降、サッカーや韓国関連の書き手としてまあまあ長くやってきた筆者は、超ド級のK-POPオタクなのだ。それもガールズグループオンリー。男性グループは一切受け付けない。とにかく朝から晩までYoutubeでK-POPを見て、聞いている。つまり、緊張しすぎてロクに話が出来ないんじゃないかと。
 

そんななかでもRAINBOW(2009年11月韓国デビュー)は筆者にとって格別な存在だ。2010年の冬、韓国の記者仲間が「これいいよ」と薦めてくれた。その後、非常にごくまれに他グループに浮気する時間を除いてはひたすらRAINBOWを鑑賞してきた。


特に彼女たちの代表曲「A」(韓国版2010年8月発売、日本版2012年9月発売)にはグラグラグラっときた。エロい。挑発的。それでもってYoutubeを検索しまくったところ、ステージ外の姿は涙が出るほどかわいらしい。そのギャップに撃ち抜かれた。KARAの「ミスター」「ジャンピン」などを作曲したSWEETUNE先生の楽曲もかなりのもんだった。


あまりにたくさんYoutubeで見まくった結果、2012年9月に初めてステージ上での本人たちを見た際には、頭が混乱した。リアル世界での彼女たちの立体感が把握できなかったのだ。
 

そんなこちらの姿に、周囲からは「なにやってんの? オタク」といった哀れな視線を向けられた。しかしそんなものには一切かまわなかった。もともと日本のアイドル事情には全く明るくない自分にとっても、彼女らのパフォーマンスがかなりレッスンされたものだと分かったからだ。プリップリなのにキレッキレやん。「大人でも鑑賞可能なエンターテイメント」と思うに至った。
 

さらにどんどんハマるうちに、「制作者・表現者の意思を予測する」というディープな楽しみ方を憶えた。新曲の狙いは何だ? 振り付けの意味は何だ? このパートをこのメンバーが歌うことになった理由は? この曲、いつもと作曲家が違うやん・・・エトセトラ。海外コンテンツを見るからこその楽しみ方だった。遠くにいるからこそ、状況が分からない。だからこそ想像しまくる。高級な楽しみ方だ、と勝手に自分で位置づけた。

 
3月第1週。RAINBOWを知って4年目。ついに本人たちをインタビューする機会がやってきた。ソウル近郊の某テレビ局。歌番組の本番が終わり、トイレの前の鏡の前でとりあえず自分自身の服装を再チェックした。そうこうしているうちに・・・電話が鳴った。マネージャーからだ。
「今、楽屋に上がってきてください」
大韓民国最高のスターに会う。生涯忘れられない20分間が始まった。
 

「あー こんばんわ」
楽屋に入るやいなや、リーダーのジェギョンが日本語で挨拶をしてきてくれた。こちらはファンとして現場に行き、幾度か短い会話は交わしたことがある。細かく言うと今回が31回目のご本人たちの「お姿拝見」で、そのうち取材で言葉を交わしたのはわずか1度。2014年のグループ内ユニット活動新曲発表会の際に会見で質問したくらいだ。果たして取材者としての立場を受け入れてくれるか。不安ではあった。

 
だからこちらは過去にRAINBOWについて書いた原稿をプリントアウトして持参した。日本語の原稿。そして韓国語の原稿は今年1月のサッカーアジアカップの際、原稿に無理やり「RAINBOW」と書き込んだものも差し込んだ。
日韓両国語で書いた原稿のコピーを見せると、ウリが聞いてきた。
「この日本語の原稿は、日本の親しい人が書いたんですか?」
「違う違う、この方が書いたの」
メンバーたちが先にこちらの立場を説明してくれた。かなり嬉しかった。いっぽうで逆に緊張が高まりもした。インターネットで「ウリのニックネームは“おばあちゃん”」という話を見聞きしていたからだ。ステージ上ではクールなラッパーなんだが、ふだんはかなりおっとりしているという。うわー聞いたことある話は本当やん。目の前におるやん。そう考えるとちょっと汗が出た。


そんな矢先、資料を見たジェギョンが何かを思い出したかのように日本語で言った。
 「あ これ 見ました。サッカー(の記事)」
 うおーんありがとう。一気にプレッシャーが解けた。
 さ、いきましょか。オタクとしての重大な仮説の証明へと。


© Eiji YOSHIZAKI


--一番お聞きしたいことをまず最初に聞きます。外国人の立場から聴いた新曲「BLACK SWAN」についてです。サビの部分で「アナジュセーイヨー(抱いてください)」「パダジュセーイヨー(受け入れてください)」と歌いますよね。「チュセヨ」(韓国語で「~してください」という意味の)を「チュセーイヨー」と歌う。これ、ある意味が含まれていると思うんですよね。何かというと・・・・・・英語で「SAY YO」って歌ってるでしょ? よくアメリカの歌手がステージの上からファンを煽るときに使う。
メンバー全員:あー そっかー!
ノウル:不思議な感じがしますね!
ジスク: 'SAY YO, HOHO'

 
--そうです。そうです。
ジスク:  (歌いながら)アナジュSAY YO!
 

--合ってます。合ってます。もしやそういう意図があった?
メンバー全員: うわー 今知りました! はじめて!
ヒョニョン:作曲家の先生に聞いてみます! そういう狙いがあったのかと。
 

--えっ、あ、そうですか? 外国人としてこれを聴くと、最初は韓国語の歌詞が漠然としか分からない。ボーっと聴いていたら明らかに「SAY YO」と歌ってますよ! で、そうじゃなかったってこと?
ジスク:  フツーの敬語ですよ!
 

--でもね、オレ、数日前に韓国の新聞社のポッドキャストに出演したんですが、そこでも韓国語でガンガンこの曲の話をしたんですよ。「大韓民国最高のスターが新曲を発表しました」「SAY YO、 SAY YOとみんなで楽しみましょう!」と。かなり反応がよかった。おっちゃんのMCも「SAY YO HOHO」と大騒ぎで。
メンバー全員:おーいいですね! それ! 

 
--だから、静かな今回の曲に隠された意図があるんじゃないかと。つまり楽しい部分がある。これこそがまさにRAINBOW。らしさだな、と。これを今日は確認しにきたんですよ。オタクがYoutubeを通じて分析した結果を。
ジスク:オタク! かわいらしく言いますね。
ジェギョン:実際のところ今回、私たちはこの曲でチャレンジをしたという部分があります。ファンの皆様に気に入ってきただけるだろうか、あるいはたんに静かに終わってしまうだろうか。そういったチャレンジに可能性を見出した理由は・・・この曲の「聴けば聴くほど魅力的になっていく」という点でした。だから多様な魅力が隠れたこの歌なら、勝算があるんじゃないか。そういう判断の下、この歌を選択したのです。
 

--一番最初にこの歌を聴いた時、「あら、もうちょっと明るい曲でもよかったんじゃないの?」と思ったのも確かです。でも曲を聴いていくと、「希望を歌う歌なんだ」と感じますよね。とくにヒョニョンさんが歌うパートが。
ヒョニョン:確かにそうです。歌詞の内容もそうですしね。
ノウル:癒しになる歌でもあります。

 
--さあ、これからもっとジャンプアップしていこう。そういう人たちを応援する歌でもあります。そういった意味では、RAINBOWの今の姿とも重なるのでは? じつは本人たちのことを歌った歌だったりして。
メンバー全員:あーっ(そんなこと全然思っていませんでした、という雰囲気)。
ジェギョン:歌詞が「気になります(クンクメヨ)」というフレーズから始まるでしょ? 私が今、変わって行く時を迎えているんだけど、その姿を周囲は気に入ってくれるだろうか、という問いを投げかけているんです。そして歌の後半部分で、再び周囲に訴える。「こういった私も私だから 抱きしめてください」と。かわいがってください、受け入れてくださいと。そして最後には笑顔を見せる振り付けで歌が終わる。これは私たち自身が新しく変わっていく姿だといえます。RAINBOWが新しいイメージに変わっていくということです。
さきほど「勝算があると見た」とお話はしましたが、実際のところ、この曲を始めてステージでやった時は怖くもあったんですよ。ファンの皆様が気に入らなかったらどうしようかと。だからこそ私たちは一生懸命この曲を歌い、踊ることでっしっかりとアピールしようと考えた。こんな私たちも愛してください、という風にです。この点を伝えていこうとしてもいるんです。もしこの曲と私たちの姿が一致する部分があるとすれば、最後の部分ですよね。
 

© Eiji YOSHIZAKI


--少し前に、別のインターネットでの記事を見かけましたよ。「今回の新曲が最後だという覚悟でやる」とお話されていた反面、「今年は3回はアルバムを出したい」とおっしゃっていた。このお話の真相はどういったものでしょう? とても気になります。
ジェギョン:ここまでRAINBOWが活動してきたパターンを見ると、一曲で長く活動し、その後長く休むというものでした。だから今回、再び長く休んだのなら、永遠にカムバックできないだろうと考えました。これが最後かもしれないという覚悟で一生懸命活動しようと。メンバー同士でそういう話をしたんですよ。そして「今年3度アルバムを出す」という話は、ちょっとした“作戦”から話した内容です。所属事務所にそうしてほしいという。記事がたくさん出ると、少しでもそういった雰囲気を作れるんじゃないかと。事務所にお願いしたいことをメディアの前で言ってみたんですよ! 活動を休んでいる時間が長く、待ってくださっているファンの皆様に申し訳ない気持ちを持ってきました。私たちも残念に思っているところです。
 

--近頃、7人での寮生活を終え、離れて住むようになりましたね。何か変化は?
ジェギョン:みんな…私の家に泊まりにくるようになりました!
ノウル:泊まり歩いている、という感じですね!
ジェギョン:ずっと一緒に住んでてたから、離れると静か過ぎるかなというのも感じますよ。だから怖かったりさびしかったりもする。
ユネ:メンバーの大切さを今大きく感じている、とでもいいましょうか。
ジスク:私はテレビをすごく見るようになりましたね。もともとは本当に見ないほうだったんですが。リモコンをいつも持っているような感じで!
 

--残り時間も少なくなったところで、今回の「目的」を果たさなければなりません。RAINBOWの皆様に「承認」をいただきたい。今回の「BLACK SWAN」を「SAY YO ソング」として紹介してもいいでしょうか?
メンバー全員:いいですね! すごくいいです!
ジスク:いいアイデアですよね。
ヒョニョン:  SAY YO! かわいいですよね!
 

--では最後に、日本のファンへのメッセージを。
ジスク: 今回、私たちが新曲を発表して、多くの日本のファンが来てくださいました。私たちのことを本当に忘れず、応援してくださる。そんな姿に感動しています。だからこそ私たちもいい姿をお見せして、こちらからもパワーをお送りすることが出来ればと思っています。本当に感謝しています。
スンア:グループとしての活動がなく、個人活動をしている時にも日本からファンの方々が来てくださるんです。でなくとも、SNSを通じてメッセージも下さったりもしますし。


--日本の他のファンたちもほんとにすごいんですよ。韓国の音楽番組の事情も全部調べ上げて、「どうすれば海外からランキングに影響を与えられるか」と日々動いていて。
ユネ:私が嬉しいのは、ファンの皆様の韓国語がどんどん上手になっていっている点です。そこまで応援してくださっているんだから、私たちはどうやってお返ししようか。そう考えるようになりました。
スンア:私たちの方も「日本語をちょっと忘れてきたかな」と思う時には語学の本を読み直したりしています。なぜなら、私たちも韓国に来てくださったファンの方々とお話がしたいからです。
 

--本日はありがとうございました!


SAY YO! 直接会ったRAINBOW。こちらに向けてくれたオープンマインドも立体的で本当に不思議な感じがした。こちらの想像はかなり暴走していたが、それでも承認いただきありがとう。
 

で、なんだこれは。
楽屋を出た瞬間に押し寄せてくる満足感。それはほんの5分後にとんでもない名残惜しさに変わった。帰り道の地下鉄で、彼女たちは再びスマホのYoutubeのなかの人たちとなった。


THE FACT JAPAN|吉崎エイジーニョ

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